平和な母系社会を営むイルカたち その2

平和な母系社会を営むイルカたち その2



この地球上で最も知恵ある生物は本当に私たち人間なのだろうか。

あらゆる生命の存在を認め、その環境の中で、
知恵を使いながら生きている生物は、私たち人間だけではない。

イルカは人間よりもはるかに古い時代に、
地球上にひとつの生物の種として登場している。

非常に高い知能を持つイルカは、
海というもうひとつの世界を自由に生きる優しい隣人と考えるべきではないだろうか。

文/メリー・コーペット


イルカに心を癒される現代人

イルカと海で対面した人々はよく、言葉ではいい表せない感動を覚えます。
一緒に泳いだ人たちの中には、泣き出して、涙が止まらなくなる人もしばしばいます。

世界各地でそのような人たちがよく口にする言葉は、無条件の愛。
そのような光景を度々目撃した人たちは、いつしかイルカに特別な癒しの力があると信じるようになり、最近ではリラクゼーションのためのドルフィン・スイム体験ツアーなどがたいへん話題を呼んでいます。
以前から船乗りには。愛嬌あふれるイルカは幸運をもたらすとされ、親しまれてきました。

また、ギリシャ時代にさかのばると、神に最も近い動物として大事にされていました。
次元を越えて旅できるイルカは、魂の進化、そして悟りを象徴し、神秘の世界へと人間を導いてきました
イルカを宇宙やアトランティスと結びつける伝説も世界には多く、世紀末に深い不安を感じる人類を不思議と引きつける要素を、イルカは持っています。

70年代に入ると、精神療法やリハビリに動物が参加することによって、セラピーの効果が高まるという研究結果に、医学界が注目し始めました。
このアニマル・アシステッド・セラピー(動物介在療法)の世界的権威であるべッツィー・スミス博士は、さまざまな動物と人間の交流を研究している中で、ある一頭のイルカの行動に強い関心を抱きました。
そのイルカは、博士や普通の人々に対しては、時々荒々しい接し方をするのに、知恵遅れの博士の弟だけには非常にやさしく接触するのです。
このイルカの行動を観察したのがきっかけとなり、博士は20年以上前にイルカの研究へと進みました。
     
他の動物と比べてイルカは、単に遊び好きだけではなく、好奇心も旺盛なので、絶えず新しい楽しみを工夫しています。
例えば、自閉症の子供と犬がボールで遊んでいると、お互いに飽きてしまえば、すぐに止めてしまいますが、イルカはそのゲームのルールを自分なりに変えたり、相手の気をひくためにいろいろ工夫もしたりします。

また、アメリカの臨床心理学者、ネイサンソン博士は、ダウン症の子どもたちの教室では、動物と遊ぶことを「ごほうび」として言語や数字を教えています。
イルカと遊ぶ時には、犬など他の物よりもはるかに学習中の子どもたちの集中度が高まり、多くの内容を覚える結果となりました。
ただし、ネイサンソン博士の見解では、イルカは単なる「ごほうび」としての役割にすぎず、子どもたちにやる気を起こさせるための一つの動機であり、イルカ白身が特殊な癒しの力を持つわけではない、と述べています。
身体の不目由な人たちは、水に入ることによって解放感を味わい、それが自信へとつながります。

脳と感情の関係を調べていたジョン・リリー博士によると、人間体が水に浮いた状態(フローテーション)にあると、筋肉がリラックスし、血圧が下がり血液の循環が良くなるとともに脳波が4~7ヘルツ、すなわち深い瞑想状態になります。
ドルフィン・アシステッド・セラピーの成功率は、それらの様々な要素の相乗効果とも考えられます。
フローテーションもドルフィン・スイムも、心地よい気分になり、鎮痛作用もあるエンドルフィンの血液中への分泌を刺激します。
 
イルカには生き物のけがやさまざまな障害を察知する本能的な力が発達しています
野生の動物のほとんどは、多かれ少なかれそうした力を持っているのですが、それに加えて、離れた物体までの距離や密度まで分かるエコロケーション(反響標定::自分の出しか音波のはね返りによって、音波の当たったものが何であるかが分かるという、音でみるシステム)を使って、例えば、体内の異常までが分かるのではないかとも言われます。

 つまり、レーダーのように機能するエコロケーションを使って、レントゲンで写し出すように立体的に投影しているかもしれないということです。

このエコロケーションから発生するクリック音は、人間の体でも感じられ、イルカに「チェック」された人は、「とても気持ちが良い」という感想を持ちます。
イルカと泳いだ何人ものガン患者の証言によると、イルカは腫瘍の位置が分かっているかのように、その部分にクリッキングを集中したと述べています。
「イルカと泳ぐと脳波がα態になる」、あるいは「気のようなエネルギーをたくさん受ける」というさまざまな説がありますが、学術的には立証されていません。

自然界の中で生きる意味を教えてくれる

80年代に入り、それまでは水族館や大学に限られていた研究も、徐々に野生の観察へと発展し、鯨類研究の第一人者であるロジャー・ベイン博士、ポール・スポング博士、ジョン・リリー博士などは、鯨類の捕獲に強く反対するようになっていきました。

一日の生活区域が100km以上ともいわれ、大海原を自由に泳ぐイルカをコンクリートのプールに入れて観察する生態データ収集法自体の限界、そしてそれ以上に、非常に発達した社会構造と意識を持つ動物を捕獲することによる動物やその群れ、さらには、環境への影響が心配されるようになってきました。
 
イルカ療法にも同じ影響が出てきました。
プールなどに監禁され、ストレスがたまって攻撃的になったり、抑うつ状態になるイルカが続出し、初期には「愛情セラピー」ともいわれていたものが、実はイルカにとっては、たいへん苦痛であるという意見が増えてきました。
長年、研究を積むうちに、捕獲に大きな疑問を抱き始めたべッツィー・スミス博士が、プールのイルカから野生のイルカのみへと研究対象を移していくまでには、いろいろないきさつがありましたが、中でも、あまりに世間やメディアに注目され、イルカセラピーの商業価値ばかりを追及するビジネスが進出し始めたことが、大きなきっかけといえます。

世界的なイルカ人気の中でも、日本のブームは異常ともいえる社会現象になっています。
しかし、それに伴うべき動物心理学・行動・生態などの研究と専門知識は、欧米に比べてたいへん遅れています。
同時に日本のぺット人口も急増し、動物を保護する法律がないに等しい日本での動物に対する虐待は、イギリスのタイムズ紙の一面で取り上げられるほど、世界の動物愛好者に批判されています。
従って、イルカの存在に対する注目が高まる傾向にありながら、残念ながら、その生態系への影響はあまり良いものではなく、以前にも増してひどくなっていくばかりです。

ブームの中、日本の水族館のために捕獲されるイルカの数が急激に増えたり、つい5、6年前までは、あまり人がいなかった海にも、ダイバーやドルフィン・スイムの団体や研究者のボートが殺到するようになりました。

イルカと人間が生きていける世界

バハマでは、海洋生物学者のデニース・ハージング博士が研究を始めた10年前にはみられなかったイルカの皮膚のただれが、最近、目立つようになりました。
汚染やバハマにはもともと存在しなかったビールスやバイ菌を媒休として発病したと考えられています。
しかも、イルカはこれらに対する抵抗力が弱いため、感染しやすいと思われます。
 
共存とは、すべての生き物が微妙なバランスの中、持ちつ持たれつ生きていくこと。
人問は、環境すべての支配に走り、自然を破壊していきました。
同じように高度な脳を持つイルカのほうは、自然とうまく調和しているようです。大きな脳を一体何に使っているのでしょうか。進化論から考えても、使わないものがこれだけ大きく発達するとは考えにくいのです。
大脳学者であり、イルカの研究をしているホーラス・ドミフス博士は、イルカの脳は右側が大変発達していて、その右脳的生き方が、まさに左脳的人類が目指すべき根本的な指標だという。 
そして今、何千何万年分もの自然破壊のつけが一気に回ってきた時、疲れ果てた人類をイルカたちが古時代の神話のように、新しい次元へと導いてくれているのかもしれないと見解しています。

ドルフィン(デルフィ古の語源はギリシャ語で、「子宮」を意味するそうです。

私たちが、左脳的計算や執着、欲望を捨て、もう一度原点に戻る大きな変化の時代を、イルカは象徴しているような気がします。