今のキッチン用品は安全?
今、多く使われているキッチン用品といえば、プラスチック製品。保存容器に始まり、まな板、ボウル、洗いざる、すりおろし器、しゃもじ、お椀、お箸まで、改めて見渡すとプラスチック製のものがじつに多いのに気づくのではないかと思います。しかも、木製だと思っていたものがじつはプラスチックだったり、木製品にプラスチック塗料がコーティングされていたり…。
誰でも、疑問や不安に思ったことが、一度ならずあるはず。「プラスチック容器は、高温で温めて、大丈夫なの?」「フライパンに加工されたものは、溶け出さないの?」などなど…。
食品添加物や農薬など食べ物には気をつけても、キッチン用品にまでこだわるという人は多くありません。しかし、食べ物から入る量に比べたら少なくても、キッチン用品から有害化学物質が入り込んでくることは事実なのです。
では、どんなキッチン用品を使えば安心なのでしょうか?
それは、「昔から使い続けられてきた素材で作られたもの」が一番安心なのではないでしょうか。たとえば、木、竹、陶器、石、鉄製品など、自然の素材で作られたキッチン用品です。昔から使い続けてきたということは、数百年、長くは数千年という年月をかけて問題がなかったこを証明しているのではないでしょうか。
漆器は贅沢品ではなく日常的に使われていた
長い歴史の中で、食器として用いられてきた代表的なものといえば、漆器があります。漆器は、けやきや檜、桜などの天然木から作った食器を漆でコーティングした日本の伝統的な食器です。今では、高級品として扱われていますが、じつは、この漆、英語で表すと、”JAPAN”なのです。明治時代まで、私たち日本人の生活は、食器に始まり調度品や家具など漆製品で埋まっていました。「そんな豊かなはずはない」と疑問に思うかもしれません。
もちろん、江戸時代までは厳しい身分社会。階級によって、使う食器は違っていました。漆器は古くは縄文時代から使われていたことがわかっていますが、長くは上流階級の人々のものであり、町人たちにまで普及するようになったのは江戸中期以降のことです。漆産業が盛んになり、現在ある約50の漆工芸産地が急速に発展を始めたのもこの頃からでした。
今でこそ、大量生産が可能なプラスチック塗料が主流となり、自然の塗料として貴重になった漆。しかも、漆の量自体が減り、現在は漆器のほとんどが輸入した漆を使っているというのが現状です。
かつては「漆の国」と謳われた日本。私たちは今、何千年という長い間培われてきた生活の中の美を失いかけているのかもしれません。
さまざまな種類があった、木や竹のキッチン用品
漆器とともに昔のキッチンで大活躍をしていたのは、木製や竹製の食器や調理器具でした。器や箸はもちろんのこと、漬け物、醤油、酢、味噌などの保存にも杉などからできた樽を使っていました。そして、まな板、ざる、かごなど調理道具も木や竹を使っていました。
とくに興味深いのは、地方色が出る「ざる」や「かご」の利用法。煮崩れを防ぐため魚を煮る際に使う「引きざる」、洗った野菜を入れる「目かご」、洗った食器を入れる「椀かご」、米や麦などを入れる「亀甲ざる」などさまざまな使い方がされていました。それらはひとつひとつ、形も編み方も違っており、用途によって繊細な技術が活かされていたことがわかります。
自然素材からプラスチックの時代へ
そんな素朴な道具の時代も、しだいに変化が訪れます。まず、器。一分の上流階級が愛用し徐々に浸透していた陶磁器でしたが、19世紀に入り急激に生産量が増え、しだいに陶磁器が器の王座となります。そっして明治時代以降の食習慣の変化が、日常使う食器や調理道具にも変化をもたらしていきました。洋皿を持つ家庭も徐々に増えてきましたし、土鍋、石鍋、鉄鍋が中心だった鍋についても、この頃から徐々にアルミ製品やホーロー製品が登場してきました。
このように、時代が経つにつれ、キッチン事情は変化してきました。では、今のようにプラスチックに囲まれたキッチンへの変化はいつからなのでしょうか。それは、1960年以降、ここ40年ほど前のことです。キッチン用品のプラスチック代表選手、保存容器に食べ物を入れることに当初、主婦達は抵抗を感じたようですが、今日のように広がるのに、それほど時間はかかりませんでした。
心配されるプラスチックと環境ホルモンの関係
プラスチックがここまでキッチンに浸透したのには、いろいろな理由があります。使う側にとっては軽い、さびない、腐らない。一方メーカー側にとっても大量生産ができる、安い原料であるなど、それぞれ利点があったからでしょう。また石油化学製品の特色として、自由自在な色とデザインが可能であることも広まる一因だったでしょう。
しかし、確かにプラスチックの良さがある一方、それ以上に、使用することに対して危惧を感じさせる研究報告がいくつも出てきていることも周知の通りです。
プラスチックの原料は石油。さまざまな工程を経て、今わたしたちの回りにあるプラスチック製品となります。プラスチックの人体への影響で問題となるのが、発ガン性や環境ホルモンの疑いです。環境ホルモンとは、正しくは内分泌撹乱化学物質といい、人や野生動物の内分泌系を混乱させ、生殖機能への悪影響や、ガンなどを引き起こす物質のこと。アザラシやカモメなどの野生動物はすでに、ダイオキシンやPCBなどの環境ホルモン物質によって、雄の雌化、生殖機能の異常、神経系への影響などが現れています。環境省の調査でも、人間の赤ちゃんのへその緒から塩化ビニルに使用されるフタル酸エステル類が高濃度で検出されています。乳ガンや子宮内膜症、前立腺ガン、アトピーなどの病気が増えているのもこの環境ホルモンとの因果関係が疑われているのです。
プラスチックの添加剤のこと、知ってますか?
さらにもうひとつの不安は、プラスチックの製造工程で使われる添加剤です。添加剤は、熱や光に弱いプラスチックの原料を強くしたり、やわらかくしたり、色をつける目的で加えられます。プラスチックそのものとともに、この添加剤がプラスチックの安全性と重要な関係にあります。つまり、このプラスチックの中に練りこまれている添加剤が、時間の経過により溶け出してくることも危険とされているのです。
なかでも食器に使われている添加剤の一部も環境ホルモンの疑いがあるとして挙げられていることは、とても気になります。
「毒性はない」とされるプラスチック。本当に安全?
実際、食べる物が直に接する食品用プラスチック容器、包装材、器具などは、食品衛生法によって規格基準が定められています。では、この基準に果たして信頼性があるかというと、そうとはいえないようです。なぜなら試験の条件自体が、家庭での一般的な使用状態より甘く設定されているからです。また対象となるプラスチックや試験項目も少ないうえ、環境ホルモンなどについてはまったく考慮されていません。なかには、基準値以内の極微量でも人体に影響するという研究報告が次々と発表されているプラスチックもあるのです。食品衛生法の規格にあったプラスチックだから安全だろうと判断し、安易に使用することは避けたほうがよいことがわかります。
日々、さまざまな有害化学物質を摂取しているのが、私たちの実状。2種以上を摂取したときの相乗作用は?相加作用は?これに関しても、まったく考慮されていないのが現状なのです。まだ使い始めてから半世紀ほどにも満たない今、プラスチックは人体へどのように影響を及ぼすのか、本当のところは答えが出ないはずです。それは、百年、二百年先になって初めて判明してくるものではないでしょうか。
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子どものことを考えていますか?給食用プラスチック食器の歴史 プラスチック食器の安全性を考えるうえで興味深いのが、学校給食で使われる食器の変遷です。
学校給食が全国に始まったのは1947年、軽い金属アルミニウムからできたアルマイトが使われていました。これは金属ですから落としても割れないという長所を持つ反面、熱いものを入れると、食器が手で持てないほど熱くなるという短所がありました。
そこで1960年代、登場したのが熱を伝えにくいプラスチックの食器。この頃はポリプロピレン製の器で70年代終わりには全国に広まりました。しかし、この食器からは酸化防止剤として使用されるBHTが溶け出すことが判明、給食食器として中止されました。このBHTは動物実験により肝臓肥大、催奇形性、染色体異常などの強い毒性が問題となった物質です。そこで80年代には、今度はメラニン樹脂の食器が登場。硬くて陶器のような感じがしたものですが、このメラニン樹脂からは呼吸障害や発ガン性が疑われるホルムアルデヒドが溶け出すことが問題になりました。そして次に変わったのがポリカーボネート製の食器。しかしここでも、ビスフェノールAが溶け出すことがわかったのです。ビスフェノールAとは、代表的な環境ホルモンのひとつ。超微量でも受精卵に影響があり、ガン細胞の増殖作用、脳神経への影響などが疑われる非常に毒性の強い物質です。
次々と安全性が問題となり、使用中止とされてきた給食用プラスチック食器。この給食食器の歴史からは、現在「毒性がない」とされているプラスチックでも、いつ、その安全性がひっくり返されるかもしれないという不安を感じずにはいられません。プラスチックに代わって、再び見直されてきたアルマイトの食器ですが、これもまた安全性を問う声がありあます。
化学物質には大人以上に影響を受けるといわれる子どもに、早く木製食器や陶磁器など安心素材の食器が使われることが望まれます。 |
いろいろな効用がある木のキッチン用品!
では、具体的にどんなものを選んだほうがいいのでしょう? 基本は、「昔から使われ続けてきたもの」まず木製品。最近のアジアのインテリアブームにものって、漆器や白木の器などをよく見かけるようになりました。まだまだプラスチックが人気のある子ども食器の世界でも、子ども用の安全な木製食器を作り出すメーカーも少しずつ出てきています。調理器具でも、まな板、ざる、かご、しゃもじ、米びつ、漬け物樽、味噌樽など、木製のものはまだ手に入りますので、ぜひ使ってみることをおすすめします。
一般に木製のものは、扱いが難しそう…というイメージがありますが、少し手入れをしてあげれば、それほど難しくありません。木そのものの効用を活かして製品が作られていることから、手入れも木自体が手伝ってくれます。たとえば、かごやざるによく使われる竹には、防腐・消臭・殺菌、まな板やすし桶などによく使われる檜には、防カビ、防臭、抗菌など、木そのものに天然の効用があります。そして、注目したいのがヒバ。木に含まれるヒノキチオールが強力な抗菌効果を持ち、その性質を活かしてまな板や箸も作られています。
木製品の塗料や薬剤に注意
しかし、「木製品だからといってすべてが安全とは限りません。塗料や防虫・防カビ処理も気をつけなくてはいけません」と、森の再生と安全な木材を守ることに取り組む「くりこま杉共同組合」の専務理事、大場隆博さんは言います。たとえば木製食器の塗料として漆の代わりによく使われるウレタンは、劣化すると剥がれる性質を持つため体内に入ってしまうことが考えられます。木製品には、ウレタンと同様プラスチックと量として、ポリエステルやアクリルなどが使われていることもじつに多いため、よく確認して選ぶことが必要です。
さらに木自体に防虫・防カビ処理をしていないかも気になるところ。とくに注意したいのは、現在、木材全体の80%を占めている輸入材から作られたもの。防虫・防カビ剤もさることながら、国内に入るときの検疫により薬剤処理がされている場合があるのです。塗料に関しては「家庭用品品質表示法」によって確認できますが、素地の産地や防虫・防カビ処理に関しては確認できません。
安心して使えるものを選ぶには、「製作者の顔が見えるところから買うのが一番安心でしょう」と大場さん。確かに今は、インターネットによって、製作者から直接輸入できる機会が増えました。ぜひ信頼できる製作者や納得のいく製品を探してみることをおすすめします。
木製品を使うことは緑を守ることにつながる!
ぜひ使ってほしい木製のキッチン用品。私たちが積極的に使うことは、緑を減らすことにつながるのでしょうか。大場さんは言います。「木製の食器や調理道具、どんどん使ってください。それらを作ることが緑を減らすことには決してつながりません。割り箸などは、そもそもは端材や間伐材で作るものですから。国産のものだったら割り箸を使うことだって問題ではないんです。逆にそれが森林の活用につながるんです。」
木材の需要が少なくなった今、日本の山は、人間の手が加えられず荒れているのが現状です。木の種類によって手入れの方法は違いますが、間伐して光を入れてあげないと、保水力がなくなり木は育たないのです。「緑を守ること、それは木の伐採をやめることではなく、木が良い環境で生長するのを人間が手助けしてあげること。木製品の需要が多くなれば、それだけ人間が山に入り、手が加えられることになるのです」木製品を使うことは、便利なプラスチック製品を使わないために迫られる選択肢ではありません。緑を守っていくためにも、木製品を使うことは積極的な意味をもっているのです。
陶磁器、鍋も安全なものを選ぼう
自然素材の道具や器では、長く使われてきた陶磁器もいいでしょう。しかし、ここでも注意したいのが、有害物質。私たちが今使っている陶磁器には、光沢や絵柄を美しく見せるために鉛や衣カドミウムなどが使われ、それが溶け出してくるものもあります。これらは人体から排出されず体内に蓄積されてしまうものなので、蓄積濃度が高くなると人体へのさまざまな影響が心配されます。安心のために、有害物質を含まない陶磁器を作るメーカーから購入する方法もありますし、とくに食品が触れる部分には絵柄がないもの、絵が盛り上がってないものを選ぶのもひとつの方法です。
そして鍋やフライパン。今は、こげにくくするためにテフロン加工されているものがほとんどです。これもじつは、フッ素樹脂というプラスチック素材。空炊きすると強い毒性のある化学物質が煙となって発生することがわかっています。また鍋やフライパンの内側が黒いのも、さびを防ぐ為に塗装されたもの。どちらも、剥がれて体内に入ることの害が心配です。そこで、おすすめなのは、無塗装のフライパンや鍋。料理の際に鉄分が溶け出すため、鉄分不足を防ぐのにも一役買ってくれます。
自然素材のよさと美しさを見直したい
昔から使われてきたキッチン用品には、それが作られ、長く愛用されてきた理由があります。昔のキッチン用品の素材はただ安心というだけではなく、からだを元気にしたり病気を予防したりするものが多く選ばれていたのです。ぴかぴかのプラスチックになれてしまった目には素朴に見えるキッチン用品には、そのひとつひとつに先人の知恵が活きていたり、よく眺めるとほっとするような味わいや美しさがあります。でもそんな貴重な知恵も美しさも、今、生きている私たちが大切にしなければ消えてしまいます。
昔のキッチン用品や器のすばらしさは、人のからだにとってやさしいだけではなく、自然に土に還っていくので、ゴミ問題の心配もないこと。そんなキッチン用品を毎日の生活の中で使いこなしていけば、もっと自然素材の良さがわかり、愛着が湧いてきます。そして本当にいいものを次の世代へとしっかりバトンタッチしていきたいですね。
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