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国民投票で「原発NO」を選択した国(後編)

ツヴァンテンドルフ原子力発電所の核納戸。福島原発と同じ沸騰水型だ。

「核燃料は温度を下げるために水中で保管されます」原発の冷却装置室で、案内人から説明を聞く中村さん。

宇宙基地のようなツヴァンテンドルフ原発のセンター室。中央はステファンさん。

ドナウ川沿いのツヴァンテンドルフ原子力発電所は今、市民によってグリーン電力発電所に変えられようとしている。左下は、原発の敷地に並ぶ、市民が購入したソーラーパネル。

国民投票によってついに稼働することなく「警告の碑」になったツヴァンテンドルフ原発の前で。

ここは世界一安全な原発

 

歩いていく先に広がる蕎麦畑の向こうに、箱型の建物と赤と白に塗り分けられた高い煙突が見えてきた。
ツヴェンテンドルフ原子力発電所だ。

空は青く晴れ渡り、日射しの中、蕎麦畑の向こうに見える廃墟の原発は、かつて激しい反対運動があったとは思えないほど、のどかな光景に溶け込んでいた。

ツヴェンテンドルフ原子力発電所では、電力会社「EVN」の社員であるステファン・ザッハさんが待っていた。彼はアイシス取材陣をミーティングルームに案内した。


アイシス この原子力発電所は、どこの会社が作ったのですか?

ステファン 1976年、私たちの会社「EVN」によって作られました。しかしそれから2年後の国民投票の決定によって、原子力発電所はついに一度も稼動しないまま、その後の運営は「EVN」に任されました。

アイシス 今、この稼動していない原子力発電所はどのように使われているのですか?

ステファン 現在、ドイツやインドなど、他国の原発の研修などに使われています。

アイシス もしここで原発が稼動していたら、そこから出てくる使用済み核燃料は、どこに捨てるかは決まっていたのですか? 

ステファン ウクライナです。



でもウクライナに住む人々にとってそれは危険では、という思いがよぎる。チェルノブイリ原発事故があったウクライナは、他国からの放射性廃棄物の捨て場になってしまうのではという懸念が出ているとも聞いた。

その後、ステファンさんは、原子力発電所の内部を案内してくれた。
通路の壁に「ここは世界一安全な原発です」とユーモラスなポスターが貼られていた。

センターである制御室には、無数のボタンがついたコンピューターが並んでいた。
「まるでUFOの内部のようでしょう」と、ステファンさん。たしかに原子力発電所の内部には、現代科学の最先端技術が凝縮されていることを目の当たりにした。

福島原発以後、世界中から訪問者が急増

途中で、案内人はステファンさんから、施設の管理者に代わった。

「プルトニウムがこの上にあり、ここは水に満たされていたはずの場所です」。

もし原子力発電所が稼動していたら、そこには絶対に入れない場所を私たちは歩き回った。

「じつはこの発電所は、福島原子力発電所と同じ『沸騰水型』なので、あの震災の直後は、ヨーロッパ中の記者がここに見に来ました」。

なるほど、一度も核燃料を入れたことのないこの原発なら、放射能汚染の不安を考えずに原子力内部の取材ができるわけだ。

ヨーロッパ中が頭を悩ませている、放射性廃棄物の捨て場

最後に案内されたのは、原子力発電所の最上部にある屋上だった。
真下をドナウ川が、青空を映し出しながら流れている。
それにしても今やヨーロッパを横断するドナウ川沿いにも点々と各国の原発があるわけで、はたして放射能漏れなどは大丈夫なのだろうか……。そんな懸念が過ぎる。

EU28カ国のうち、14ヵ国に原発があり、その数は147基にものぼる。
今、原発が稼動しているどこの国でも、大きな問題となって浮上してきているのは、放射性廃棄物をどこに捨てるのかということだ。

原子炉一基を一年間、運転すると、約20トンの使用済燃料(高レベル放射性廃棄物とも言う)が出る。世界で稼働中の原子炉は、現在443基あるため、443基×20トン=年間8860トンが産出されている。さらにそれだけではなく、ドラム缶約1000本の低レベル廃棄物(衣服、消耗品、廃液など)が発生する。

ということは、稼動する年月がたてばたつほど、放射性廃棄物が増え、難しい問題が大きくなっていく。
イギリス、フランス、ドイツなどでも、最終処分場建設に対して、住民の反対運動が起こり、思うように進んでいない。フィンランドは、10万年後を想定した最終処理場「オンカロ」を建設中だが、それさえも様々な種類によって異なる放射能の半減期を考慮すると完全なものではない。

原発は、現代科学の粋が集積したもののはずだが、じつは使用後の処理が未解決のままのエネルギーなのだ。
それゆえに原発が「トイレのない家」とたとえられる由縁であり、たとえ事故がなくても、未来の世代にとって、危険な負のリスクを確実に大きくしていく。

市民が原発を再生可能エネルギーの場へと変える

ツヴェンテンドルフ原子力発電所の屋上から下方を眺めるうちに、敷地の一部に、明るく輝くものが目に入ってきた。
それは、何百もの太陽光パネルだった。

「市民が資金を出して、太陽光パネルを買い、そこに並べているのですよ」と、案内者は説明した。

原発の敷地に並べられた太陽光パネルには、「原子力発電所を、再生可能エネルギーの発電所へ変えよう」という、市民の強い意思が託されているのだった。

それらの太陽光パネルによって2009年6月から電力が作られ、年間約180メガワット時の電力が供給されている。また原発の敷地内には、再生可能エネルギー研究所なども設けられているとのこと。
さらに2010年から、毎週金曜日に原子力発電所のガイドツアーが始まった。

「このガイドツアーは、太陽光パネルを買った市民たちの発案で始まり、市民ボランティアが案内人も務めていますよ」。

とくに最近は、福島原発事故の影響もあって、原子力発電所への関心が高くなり、ガイドツアーは、かなり先まで予約がいっぱいとのこと。

廃墟となった原発は、市民によって、自然エネルギーを作る場へと変えられつつある。

ツヴェンテンドルフ原子力発電所の一隅にある太陽光パネルの輝きは、つい少し前に心を占めていた暗い不安を吹き払い、明るい未来へ向かう希望の光そのもののように見えてきた。




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