「AMA」のバーバラさん(写真右)とドリーさん(写真左)。
スーパー業界が積極的にビオ製品を導入し、一般人の購入を促した。
ビオ専門スーパー、「デンス」。農産物からハーブティー、化粧品が揃う。
オーストリアでは消費者の半数以上が有機食品を購入している。
週末にウィーンにたつ市で、オーガニック農産物を売る販売者たち。
オーストリアの多くの有機農家は、自然を敬愛する哲学を持っている。
ウィーン近郊の葡萄畑。オーストリアには、数多くのビオ・ワイナリーがある。
ヨーロッパのオーガニック食品をリードするオーストリア
ヨーロッパでもっとも有機農業地の割合が大きいのは、オーストリアで約20%。環境先進国というイメージがあるドイツは5~6%、そして日本は、1%と言われているから、20%と割合がいかに高いかがわかろうというものだ。
そのオーストリアでは、今やオーガニックは特別なものではなく、誰もの生活の中にさりげなく入り込んでいることは、ウィーンのスーパーを訪れると実感する。オーストリアのオーガニック専門スーパーというと、「denns」などが有名だが、一般的なスーパー(「BILLA」など)にもオーガニックの野菜や果物そして加工食品が数多く並んでいるのだ。
オーストリアのオーガニック食品には、「AMA (Agrarmarkt Austria:オーストリア農産物市場マーケティング会社)」によってオーガニック認定マークがつけられている。「AMA」は、オーストリア政府から委託されて、有機認証を行っている民間の会社だ。そのほかにも「AMA」は、農産品に関する各種認定も行うと共に、すべての農業マーケティングを推進する活動によって、オーストリア全体の農業生産の向上を支援している。
スーパー業界がオーガニック食品の普及に貢献
オーストリア取材が始まって14日目、アイシス編集部は、ウィーンのドレスナー通りにある「AMA」本部のビルを訪れた。
親しみのある対応で取材に応じたのは二人の女性で、ビオ・コーディネーターのバーバラ・シュルツさんと、ビオ製品の輸出を担当するドリー・ブラッハさんだった。
アイシス オーストリアは、EU一番のオーガニック国です。そうなったきっかけは何でしょうか。
バーバラ オーストリアで有機農地が増え始めたのはヨーロッパでも早く、1960年代からでした。そしてオーガニック食品の販売が、一般的にも軌道に乗り始めたのは、70年代。その後、90年代初頭にオーストリアでのオーガニック・ブームが始まりました。
(1990年から1994年の間だけで、オーストリアのオーガニック農業経営者は8倍以上に増加したという統計もある)。
そうした状況を見て、民間のスーパーマーケット業界が、自発的にオーガニック食品を販売しようという取り組みを始めたのです。
アイシス なるほど、それで普通のスーパーに豊富なオーガニック食品があったわけがわかりました。
バーバラ そのようにスーパーマーケット業界がオーガニック食品の販売に力を入れた影響が、結果的に全ての産業に波及しました。ですからオーストリアにおいて、オーガニック食品は政府ではなく、民間の意思で広がったのです。
アイシス スーパー業界のオーガニック製品の積極的な取り組みは、ドイツでもあったそうですね。
バーバラ ビオ製品の積極的な取り組みは、ドイツよりも早く、もともとオーストリアから始まったことです。
まさにオーストリアは、オーガニックの分野では、有機農家が多いだけではなく、有機食品を一般消費者に普及する方法においても、ヨーロッパでも先駆的な役割を果たしてきたのです。
「AMA」では、EU基準よりもさらに厳しい基準をもって、オーストリア独自の認証マークをつけているとのことだった。オーストリア産のオーガニック食品は品質が高いために、ドイツやイタリア、フランスなどEU諸国でも人気があり、オーストリア経済の好調を支える一因になっている。
オーガニック食品は、医療費節減につながる
アイシス オーストリアでは、何%の人がオーガニック食品を摂っているのですか?
バーバラ オーストリアでは、オーガニック食品を日常的に摂っている人が18%、さらに部分的にオーガニック食品を摂り入れている人は、36%にもなります、ですから、半数を超える国民が、オーガニック食品に関心を持っていると言っていいでしょう。
アイシス 「AMA」は、オーガニック食品を普及するにあたって、どんなメリットを市民に訴えているのですか?
バーバラ 環境保全、生物の保護などに加えて、食べる人の健康がありますが、国が支出すべき医療費を削減できることも伝えています。それによって余裕が生まれ、ほかの本当に必要なところへ予算を使うことができます。
アイシス オーガニックと医療費節減を結びつけて考えているというのは、素晴らしいことですね。
オーストリアを100%オーガニック国に
アイシス オーストリアの有機農家の特徴について教えてください。
バーバラ オーストリアの有機農家は小さな規模が多いのですが、思想や哲学を持ってオーガニックに取り組んでいる人が少なくありません。たとえば彼らの多くが、「オーガニックの魅力は貴重な生物を守りながら、資源を有効に循環させることができる」と考えています。
アイシス 「循環」という言葉は、持続可能であることを求める時代のキーワードですね。これからもオーストリアは有機農地をさらに増やしていくことを考えていますか。
バーバラ もちろんそうです。最近、EUでは、2014年から2019年の5年間に全体の20%を有機農地にするプロジェクトが動き始めました。
そうなると、オーストリアは、さらに今の20%以上を越えて有機農地を増やしていくことになるでしょう。
オーガニックに対するオーストリアの取り組みの積極さに、感動を覚えながら最後の質問をした。
「今後、オーストリアは、どれぐらいの農地をオーガニックにしていきたいと考えているのでしょうか。具体的な目標値はありますか?」
バーバラさんの口から驚くべき数字が出てきた。
「100%です」。
こちらがびっくりしていると、バーバラさんの口元がふっと緩んだ。
「私が生きているうちには実現したいですね」。
バーバラさんは、20代の若い女性で、「私が生きているうちには」と言う言葉はそぐわなかった。
ああ、この人は、「オーストリア丸ごとオーガニックランドにする」という理想に生涯をかけるつもりなのだ!
その理想を夢で終わらせないという意気込みが熱く伝わってきた。