2015年5月15日up
アイシス・ウィーン支部から8回目の記事が届きました。
オッシアッハ森林研究所前に集合した日本人研修生
オシアッハ森林研修所で、林業の講義を熱心に耳を傾ける日本人研修生
研修最後の卒業終了パーティーでは地元の豚の丸焼きやワインをいただきながら、みなさん熱心に情報交換をされていました
オーストリアは、林業が盛んで、バイオマスエネルギーの先進国です。
そんなオーストリアに毎年、日本各地の林業関係者がオシアッハ森林研修所で学ぶ交流も始まっています。環境を守りながら、日本の林業をもう一度盛んにするためには何が必要なのでしょうか?(アイシス編集部・編集長 水上洋子)
オッシアッハ森林研修所 その2
オーストリアでは、オーガニック農業者が林業も兼ねている
未来の林業を担う日本人研修生がやってきた
自然エネルギーに力を入れているオーストリアでは、林業も盛んで、とても進んでいます。
毎年、大使館による日本・オーストリア国交交流の活動のひとつとして、オーストリアのオッシアッハ森林研修所で、日本の林業関係者が研修するという交流が2013年から始まりました。2014年、9月には、日本全国の森林組合などに所属する約20名の方々が、約1週間のオッシアッハ森林研修所に来たので、ウィーン・アイシス支部として取材しました。
研修生のみなさんのお話には、日本で役立てられる技術・知識習得しようという意欲があふれていました。
「日本人研修生は、教室での森林教育だけではなく、実際に森へ行ったり森で働いたりする講座があることに、とても興味をもっていました」とツェシャー所長さん。
日本人研修生が、学ばれた主な分野は、次の4点です。オッシアッハ森林研修所の大きな目的は、林業者の安全教育ですが、とくに4番目の分野は、自然エネルギーに力を入れているオーストリアならではの林業のあり方が伺われ、興味深く感じました。
- 林業労働安全教育
木材生産を増加させながらも、林業労働災害を減少させたオーストリアの効果的な安全教育
- 森林管理・育林
樹種に応じた森林の育て方と管理方法、森林保護対策
- 林道開設と木材収穫
地形に合わせた林道の計画及び作り方と、使用機械に応じた効率的な木材の収穫作業手順
- エコロジー
森からのバイオマスエネルギー創出と地域ボイラー
遠くの国の石油よりも、目の前の森林を活用しよう
取材では、残念ながら全ての方にお話をお伺いすることはできませんでしたが、お話をお聞きした方の林業への熱い思いが伝わってきました。
「オーストリアでは行く所、行く所にいい場所がたくさんあり、勉強になりました。 日本と違うところが多く、それだけに学ぶことが多い研修だったと思います。まだ頭でまとめられていないのですが……」と熱く語り始めてくださったKさん。
「まずは、林業が国の基幹産業として社会システムの中にしっかり位置づけられていることが、日本と大きく違っています。資源が少ないという点では、オーストリアも日本も同じですが、オーストリアの林業関係者は誰もが"遠くの国から石油を買うよりも、目の前の森林から再生できる木材資源を最大限に持続的に利用しよう"と言っていたことに驚きました」。
オーストリアではこの理念を林業の関係者が共有し、それを実現するために努力している林業者は尊敬され、林業はあこがれの職業として認められているとのこと。もうひとつ、日本との大きな違いは、持続的に木材を生み出すために、森林土壌を守ることをとても大事にしていること。つまりエコロジーとエコノミーの両立が高いレベルで実践されているとのことでした。
Kさんとお話していると数名の研修生が集まってきて、様々な思いをたくさんお話しくださいました。
「日本では、例えば森林所有者が林業業者に伐採を依頼しますが、依頼時には金額の約束はなく、全てを任された林業業者が実際にかかった手数料を売り上げから引いた分を所有者に渡します。オーストリアでは森林所有者が『○○ユーロで』と金額や木の伐り方を決めて林業業者へ依頼するので、依頼者が主導権を握っています。依頼者の森への関心が高いので、森の事を考慮した範囲での伐採が実行されるようです」。
安全教育を担当する林業マイスター
オーストリアでは、林業マイスターのような高いレベルの森林と林業のエキスパートがおり、彼らが新人を教えるため、高い技術を学び、引き継ぐことができるのです。
研修生の一人はそんなオーストリアを羨ましく思いながら、日本の現状について話してくれました。
「日本にはオーストリアのような現場実習を事前に受けられる制度が充実していないので、一般には就職してから初めて現場を経験します。さらに、新人に教える先輩も同様に、森林・林業のエキスパートと呼べる者とは限らないので、OJT?で必ずしも高い技術を学べるとは限らないのです。私達も林業にプライドを持って仕事していますが、必ずしも林業のエキスパートが組織のトップではないのが日本の現状です」。
この方は、そんな日本の現状を、ツェシャー所長さんにお話ししたところ、「それでは林業は成り立たないだろう!」と言われたそうです。
「オーストリアでは、ツェシャー所長のように、森林・林業について知識も技術も全て現場で経験をつんだエキスパート中のエキスパート、つまり、特別な森林・林業の国家資格を取った人がトップになり、その術を若者に受け継いでいく体制になっていました。それは驚きでした」。
確かに日本の林業は現在、低迷期からの脱出策を模索しています。研修終了式でも大きな関心はやはり次世代にどうやって林業を引き継がせていくかということ。研修生の間から、若者への林業へのモチベーションや林業を発展させるための対策についてなどの質問が多く出ていました。
自然の恵みを後世に残したい! そんな思いで林業に関わる
オーストリアでは行政による林業への補助が手厚いため、個人で林業を営む人も多く、失敗を恐れずに挑戦する姿勢があります。また住民の自然・森林・林業への関心も高いのです。いっぽう、ほとんどの日本人は、林業についてよくわからなかったり、関心が薄いのではないでしょうか。
もうひとつ、研修生を驚かせたのが、森林組合などグループが林業経営をしているのが一般的な日本とは対照的に、オーストリアでは林業者の多くが農業を経営している方々だったこと。
「とくにオーガニック農業の方々が多く、『自然の恵みを後世に残していきたい』、『農業・オーガニック農業をするなら、林業までもやろう』という住民の自然や未来の事まで考える姿勢があります。それに加えて失敗を恐れずに挑戦してみる姿勢、この根本的な部分がオーストリアの林業を支えているのだと感じました」。
個人経営での林業も盛んなオーストリア。日本よりも物価が高いヨーロッパにありながら木材の価格は、日本よりも安いそうです。コストを低くしているのが、効率的な機械化だとか。
「オーストリアは林業の機械化で有名ですが、日本とは違う構造の機械でした。日本は様々な林業用工具をショベルカーのような土木工事用の重機に取り付けたり、取り替えたりして使います。重機はやはり大きなグループに向いています。オーストリアの林業用工具は農家のトラクターにつけて、農家の方がすぐに使える形のものが多く開発されていました。こういった機械が、各農家の、個人経営型の林業への参戦というオーストリア林業スタイルの大きな支えとなっているようです」。
行政の林業者が主流となっている日本でも、オーストリアのように個人経営をされている方も少ないながらもいられるそうです。研修生の中でもどこか違った雰囲気のあるK・Oさんは、日本では珍しい個人林業経営者でした。家族に、そして人に、優しいものを作りたいとサラリーマンから転職し、ご実家でオーガニック農家から始められ、林業にも関わるようになったそうです。これから先、K・Oさんのような方も日本で増えていくと嬉しいですね。
すべてを無駄なく使う、オーストリアの林業スタイル
オーストリアは、「バイオマスエネルギー先進国」です。研修でも、この分野が重要な講義に入っています。ようやく日本でもバイオマスエネルギーの発電所が設置され始め、徐々に増えています。
例えば、鳥取県では来年(2015年)に稼動を始める予定。私の故郷、長野県でもこれから始めていく予定があるとか。日本人研修生は『バイオマスエネルギー先進国』オーストリアのバイオマスエネルギーについてどのように感じたのでしょうか?
研修生のKさんはこんな話をしてくれました。
「オーストリアではバイオマス利用のみというより、木材利用全体にまったく無駄がないことに感心しました。製材用に使えない木材を燃料用として無駄なく使い切る仕組みがすばらしいと思いました」。
「例えば、巨大な製材所では端材やカンナ屑が多量に出ます。オートリアでは、それらを製材所に併設されたバイオマス発電所やペレット工場で無駄なく利用していました。さらにバイオマス発電所の余熱は、製材品の乾燥機で使用し、それでも余る余熱を地域家庭へ熱供給するインフラ整備が出来ていました」。
残念ながら、日本では地域暖房として、バイオマス発電の余熱を利用するということは、いまだ取り組まれていません。
「また、オーストリアは薪を家庭で使う文化が残っていることから、木質バイオマス利用に抵抗感がすくないのではないかと感じました。それでも、便利で安価でなければいけない、という点もとても合点がいきました」。
オーストリアの素晴らしい林業について取材するうちに、気になっていた質問を研修生にしてみました。
――現在、世界では燃料としての森林の乱伐が問題になっていますが、オーストリアではそんな問題には目が向けられているのでしょうか?
「本来バイオマスエネルギーは製材に向かない質の低い木材を燃料とすべきですが、単に燃料確保として木を乱伐すれば森林破壊として問題となってしまいます。目先の利益のみの経営方針では、日本でバイオマスエネルギーが普及しても森林の未来はないかもしれません。今回の研修で学んだもっとも大切な点は、オーストリアでは、森林と環境とのバランスを考えながら林業経営がされているということです。その点をぜひ日本の林業の発展に活かしていこうと思います」。
手付かずの自然というのも、残していくべき貴重な地球財産です。ぜひオーストリアの林業研修を活かしながら、本来の自然もちゃんと残しつつ、日本の風土にあった形の林業やバイオマスエネルギーが発展していけば嬉しいですね。
取材 アイシス・ウィーン支部 ゼマンみのり記者